TOYOTA BOSHOKU ROWING TEAM
交通や交易の手段としてボート(船)は人類の歴史と共に発展してきました。競技としての登場は紀元前1430年まで遡ります。古代エジプト第18王朝の第7代ファラオ、アメンホテプ2世はボート選手としての功績もあったと記録されており、古来よりボート競技は人々に楽しまれてきました。
日本のボートの歴史は1855年江戸時代末期。移動手段、交易として利用されてきた船でしたが、当時の日本にスポーツという概念は無く、長崎海軍伝習所が教科の一つとしてカッター艇の乗艇訓練を行ったのが日本初の競技用ボートへの乗艇記録とされています。その後1928年 アムステルダムオリンピックに参加するなど、約150年間で世界水準に近づくまで進化を遂げて来ました。
春夏秋冬、季節に関係なく行われるスポーツ。気温がマイナスになるような冬の寒い日でも行われます。そんな日でも漕ぎ手が着るのは半袖のTシャツ。オールを漕いでいると体がすぐに火照ってくるからです。ボートは、それだけ激しい運動ということがお分かりいただけるでしょう。
ボートは数あるスポーツ・オリンピック競技の中では珍しく、後ろ向きに進む競技です。通常の競技では、先頭を走る選手は後ろから迫る選手を見る事が出来ず、追いすがる選手にも戦略面など一定の優位性がありますが、ボートは追いすがる相手を常に先頭の選手が見つめる事になり、一度生まれた優位性が中々覆らないのは大きな特徴です。
競技を始める年齢が他スポーツと比べると遅い傾向にあるのも特徴です。競技が出来る環境が必要な事もあり、高校、大学生から始める人が多く、中学生以下の選手数は決して多くありません。それに反してオリンピックの中では陸上、水泳に次いで出場者数が多いというのは他に無い特徴でしょう。
東京2020オリンピックでは、合計14種目が行われました。
スポーツ選手の肉体は競技特性に合わせ鍛え上げられ、ボクサーの肉体など、機能美からくる造形美と呼ぶ人もいるほどです。ボート選手の肉体はどうでしょうか?
一般的にはボートは手で漕ぐ印象を持つかもしれませんが、競技用のボートでは特に脚が重要となってきます。
漕ぎ手は脚が固定され、座るサドルはレール上で前後し、強靭な脚力で押し出した力を全身から腕にかけてオールに伝えていき、ボートを前へ前へと進めていくのです。
選手に求められるのは長時間の高出力であり、一度前に出られると追いつくのが難しいという競技特性も相まって、選手は5分以上もの間非常に過酷な運動を求められます。
陸上400メートルが究極の無酸素運動と呼ばれ、約50秒の間走り続けますが、ボート選手はこれの約5倍の時間を漕ぎ続けます。有酸素運動と無酸素運動の融合した究極的な過酷さを誇る競技と言っても過言ではないでしょう。
練習時からずっとオールを握っているため、漕ぎ手の手はまめだらけ。まめができた上にまめができるような状態で、ゴツゴツしているのが特徴です。このゴツゴツした手こそ、優秀なボートマンの証し。しっかり練習している証拠だと言えるでしょう。
数ある種目の中でも人気、注目度が高く、「ボートの花形」と呼ばれているのが「エイト」です。人気の秘訣は、全競技の中で最も速いスピード。8人の漕ぎ手がオールを漕ぐたびに、全長約17メートル、選手含め総重量750kg以上に及ぶ大きなボートが、エンジンが付いているかの如く水上を加速していきます。そのトップスピードは時速25キロになり、実際に観戦するとその速さに驚くことでしょう。
8人の漕ぎ手たちの一体感のあるオールさばきも必見であり、コックスの合図に従い、一定のリズムを刻みながら一糸乱れることなくボートを動かします。コックスの役割は合図だけでなく、ペース配分、ラストスパートのタイミングや他のボートとの駆け引きをしながら8人の漕手に指示を出していきます。9人が一糸乱れぬチームワークを発揮すれば非常に大きな力で船は進んでいき、その姿は力強くも美しく、まさに花形と呼ぶに相応しい競技です。
ストローク | クルーのリード役であり、ペース配分、ピッチの上げ下げなどをリードし、クルー全体のリズムの中心となります。 |
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バウ | 他の漕手の動きを見ることが出来るため、全体の調子を見たり、声を出して励ましたり、漕手のオールの乱れを注意する事が必要でストロークに劣らず重要なポジションです。 |
その他の漕手 | 主としてエンジンの働きをしますので、普通体力のある漕手を配します。 |
ボートを観戦した際、ボートの端に座る選手に疑問を持った事はありませんか?
選手でありながら、実際に運動をすることはありません。でも、レースには出るという、ほかのスポーツでは考えられない特殊なポジションです。実際にレース中には、何をしているのでしょうか。
コックスの役割は多岐に渡りますが、最も大きな役割は指揮にあります。競技特性上、漕いでいる選手達は前を向く事が出来ず、他のチームの状況を正確に判断する事は難しいです。そこで前を向いているコックスが勝負所を見極め、戦略的に船を動かすのです。
漕ぎ手にとって、コックスの指示は絶対。まさに“船上の監督”です。特性上漕ぎ手と比べて小柄な選手が入りますが、その役割の重要性はとても大きいのです。
オールを漕がないコックスは、体重が軽いほうがよいため小柄な人がなることが多いです。経験が物を言うポジションだけに、中には50代の大ベテランもいます。漕ぎ手が陸上でトレーニングを行う時は、トレーナー役として選手をサポートするケースが多いようです。
スウィープ競技とは違い、1人がオールを2本持つのがスカル競技です。
団体種目の多いボートの中で、唯一個人で行うのが「シングルスカル」です。スタートからゴールまでの約7分間を、自分の力だけで進んでいきます。
2,000mを漕ぎ切る過酷さは勿論、水上というのは監督やコーチの声も届きづらく、ペース配分、レースの組み立てなどを全て一人でこなす事になり、エイトとはひと味違ったタフさを求められる競技です。
ダブルスカルは漕手が2人乗り込むスカル競技です。数少ない体重制限が設けられており、日本は2000年シドニー大会と2004年アテネ大会の軽量級ダブルスカルで6位入賞を果たしています。
70kgという重量制限の中で身体を作り込んでいく事になり、体格的にも日本人向けと言えます。日本が最もメダルに近い種目といえるでしょう。
ボートは自然の中で行うスポーツ。そのため天候などの条件でレースに行方が左右されることもあります。選手にとっての大敵は波や風。真っすぐ進めるのも困難な時もあるほどです。もうひとつの大敵が魚。レース中にボートの上に飛び込んでくることも。生臭い臭いを我慢しながら、ひたすら漕ぎ続けるそうです。
スポーツの進歩はアスリートの進化と共に、最新の科学技術に基づいた用具進化の歴史でもあります。ボート競技も技術の恩恵を多大に受けており、そんな現在の最先端科学により生み出されたボート用具を紹介したいと思います。
艇は重たい木製のボートからスタートしていますが、軽さ・剛性・柔軟性を求めた結果、現在はF1やロードバイクの世界と同様、カーボン性の物が主流となっています。
種目によって長さや重量が変わりますが、9人が乗り込む最も大きな「エイト」の場合、全長17mの巨大な艇がたったの約100kgという軽さに収まっています。最小の艇はシングルスカルで使われており、全長8mで約14kgです。
オールも「スウィープ」と「スカル」で大きく違っており、「スウィープ」の場合、長さは約3.8メートル、重さは2.5キロ。一方の「スカル」の場合、長さは2.9メートル、重さは約1.3キロ。1人1本しか持たない「スウィープ」で使用するオールのほうがひと回り大きくなっているのが特徴で素材はカーボンやグラスファイバーなどが使用されています。
このように種目の特性に応じて、船が支えなければならない重量、耐えねばならないパワーを計算し、選手たちがMAXの力を伝えられるよう設計された、最先端技術の結晶と呼べる用具なのです。
ボート競技は直線で2000メートルの長丁場。観戦ポイントはスタート、中盤、ゴール付近と大きく3つ分けることができます。それぞれの見どころを紹介します。
合図とともに、レースに出場するボートが一斉に水上を滑り出します。一気にトップスピードに持っていくため、各艇とも速いピッチで加速していくのは圧巻です。それぞれの船の加速にはチームとしての力もよく現れ、リードする事がレース展開にも大きく影響する為、見ごたえのあるポイントです。
中盤は、各艇の駆け引きが見どころとなります。できるだけスピードを落とさずに、終盤に向けて体力を温存できるかがカギとなります。「エイト」であれば、コックスの動きにも要注目です。ペース配分を考えながら、勝負どころを探っているはずです。漕ぎ手にどんな指示を出しているのか、どこでラストスパートを仕掛けるのか、各艇の動きから目が離せないことでしょう。
ラストは各艇のスピードが一気に上がり?最後のデッドヒートを繰り広げます。
わずか100分の1秒差で勝敗が決まる世界で、選手たちはローアウトと言って、残る気力と体力を文字通り最後の一滴までを振り絞るのです。
観戦に初めて行く方は、ボートの迫力、面白さ、醍醐味を味わうなら、ゴール前をオススメします。